妻沼聖天山 歓喜院(めぬましょうでんざん かんぎいん)は、埼玉県熊谷市に位置する重要文化財です。聖天山の正式名称は歓喜院であり、特にその本殿は「歓喜院聖天堂」として知られています。この寺院は、日本国内で最も重要な仏教建築の一つとされ、その美しい彫刻や歴史的価値が高く評価されています。
歓喜院は、1179年に建立され、その後何度も改修が行われてきました。特に江戸時代において大規模な改修が行われ、本殿の彫刻や装飾が一層豪華になりました。この寺院は、聖天信仰の中心地として栄え、多くの信者や訪問者が訪れる場所となりました。
歓喜院の本殿は、その豪華な彫刻で特に有名です。彫刻は、木材を巧みに使った精緻なもので、動物や植物、神話や伝説の場面が描かれています。これらの彫刻は、江戸時代の職人たちの卓越した技術を示しており、日本の仏教建築の中でも特に優れた例とされています。
歓喜院聖天堂は、その歴史的および文化的価値から、1952年に国の重要文化財に指定されました。また、その建築美や彫刻の精緻さから、2012年にはユネスコの世界遺産暫定リストに登録されるなど、国際的にも高い評価を受けています。
歓喜院(かんぎいん)は、埼玉県熊谷市妻沼(めぬま)にある高野山真言宗の仏教寺院であり、日本三大聖天の一つとされています。一般的には山号に地名を冠した「妻沼聖天山(めぬましょうでんざん)」と呼称され、公式でも主にその名で案内されています。また、「埼玉日光」(国宝に指定される前は「埼玉の小日光」)とも称されており、参拝客や地元住民からは「(妻沼の)聖天様」などと親しまれています。
寺伝によると、治承3年(1179年)に、長井庄(熊谷市妻沼)を本拠とした武将齋藤別当実盛が、守り本尊の大聖歓喜天(聖天)を祀る聖天宮を建立し、長井庄の総鎮守としたのが始まりとされています。その後、建久8年(1197年)には、実盛の次男である良応僧都が聖天宮の別当寺院として歓喜院長楽寺を建立し、十一面観音を本尊としました。
鎌倉幕府初代将軍の源頼朝が参拝したほか、中世には忍(おし)城主の庇護を受け、近世初頭には徳川家康によって再興されましたが、寛文10年(1670年)の妻沼の大火で焼失しました。現存する聖天堂(本殿)は、享保から宝暦年間(18世紀半ば)にかけて再建されたものです。
平成15年(2003年)から平成23年(2011年)まで本殿の修復工事が行われ、平成22年(2010年)1月18日に本体工事の竣功式を、平成23年(2011年)6月1日に竣功奉告法会を執行し、同日から一般公開が始まりました。そして、平成24年(2012年)7月9日に聖天堂(本殿)は国宝に指定され、埼玉県内における初の国宝建築物となりました。
本殿(聖天堂)は、平成15年(2003年)から平成23年(2011年)までの修復工事により、創建当初の極彩色の彫刻が蘇りました。総工費は13億5千万円で、そのうち9億6千万円が国と県と市の補助金、3億5千万円が信徒の寄付によって賄われました。奥殿の拝観には700円の入場料が必要ですが、拝殿への通常の参拝には拝観料は不要です。
大師堂は、関東八十八箇所第88番結願所です。仁王門は万治元年(1658年)に創立され、明治24年の台風により倒壊し、明治27年に再建されました。中門や護摩堂も重要な建物として知られています。実盛公像は、齋藤別当実盛の像で、平成8年(1996年)に建立されました。貴惣門は境内入口の門で、その壮麗な佇まいが特徴です。
他にも、お祭り広場や平和の塔、軍荼利明王像、天満宮、五社神社、三宝荒神社、本坊本堂、善光寺三尊板碑(県指定有形文化財)など、多くの見所があります。付属施設として、学校法人聖天山学園 妻沼幼稚園が本坊の北西側に隣接しており、理事長兼園長は院主が務めています。
歓喜院聖天堂は、拝殿・中殿(相の間)・奥殿からなる廟型式権現造(日光東照宮などに見られる複数棟を一体とした建築形式)の建物であり、国宝に指定されています。大工棟梁は妻沼の名工林兵庫正清であり、幕府作事方棟梁の平内政信の子孫にあたります。再建には享保20年(1735年)から宝暦10年(1760年)までの二十数年が費やされました。
奥殿は入母屋造で、彫刻や漆塗、彩色、金具などを華麗に施した装飾性の高い建築です。特に、奥殿向拝南面羽目板の「鷲と猿」の彫刻は伝説的な彫刻職人の左甚五郎作と伝えられていますが、実際の彫刻棟梁は石原吟八郎(吟八)と関口文治郎です。これらの彫刻には中国の故事にちなむ主題が見られ、唐破風下には「三聖吸酸」及び「司馬温公の瓶割り」、拝殿正面唐破風下には「琴棋書画」があります。
2003年から2010年にかけて屋根葺き替えと彩色修理を中心とする修理が実施され、当初の彩色がよみがえりました。2012年には国宝に指定され、奥殿の彫刻や装飾はその精緻さと美しさから高い評価を受けています。
歓喜院には、国指定重要文化財である錫杖頭や貴惣門も存在します。貴惣門は境内正面入口に位置し、嘉永4年に竣工しました。持国天、多聞天の像を左右に配置しており、その壮大な構造は訪れる人々を圧倒します。錫杖頭は、聖天堂の秘仏本尊であり、建久8年の銘があり、中心に歓喜天と二童子の像が鋳出されています。
歓喜院では、春季と秋季に「大縁日大祭法要」が行われ、また、2月3日には「節分会」が開催されます。2012年には囲碁の本因坊戦が行われ、その後も定期的に囲碁の大会が開催されています。
聖天寿司は、妻沼地区(旧妻沼町)の名物である稲荷寿司です。一般的な稲荷寿司とは異なる細長い形状が特徴で、200年以上の伝統を持っています。戦前まではこの細長い形状が一般的でしたが、戦後の委託加工制度によって握り寿司のサイズに規格が統一されました。しかし、妻沼地域ではこの伝統を守り続け、今日まで名物として親しまれています。
巻き寿司とのセット(助六寿司)を基本として、これを専門に取り扱う寿司店が近隣に3軒あります。また、市内各地にも類似商品を製造販売している企業があります。2023年3月3日、文化庁『100年フード』の「伝統の100年フード部門 ~江戸時代から続く郷土の料理~」に『妻沼のいなり寿司』として認定されています。
歓喜院は、熊谷市の中心部からアクセスしやすく、多くの観光客が訪れる人気のスポットです。寺院周辺には美しい庭園や静かな雰囲気があり、訪問者は歴史と自然を同時に楽しむことができます。また、季節ごとに様々なイベントが開催され、地域の文化と触れ合う機会も提供されています。