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誠之堂

(せいしどう)

渋沢栄一の精神が息づく、美しい建築

埼玉県深谷市にある誠之堂は、渋沢栄一の喜寿(77歳)を記念して大正5年(1916年)に建てられた歴史的建築物です。国の重要文化財に指定されており、その美しい外観と洗練された内装は、多くの人々を魅了します。設計は当時の建築界の第一人者であった田辺淳吉が手がけ、「西洋風の田舎屋」を独自の発想で造り上げたものです。

建築の背景と歴史

誠之堂は、渋沢栄一の業績を称えるために建てられました。渋沢は深谷市に生まれ、株式会社組織の創設や育成に尽力し、日本の近代経済社会の基礎を築いた人物です。彼が初代頭取を務めた第一国立銀行は後に第一銀行となり、その頭取を辞任する際に行員たちから敬愛の念を込めて建てられたのが誠之堂です。

平成15年5月30日には、国の重要文化財に指定されました。建物の名称「誠之堂」は、渋沢自身が儒教の経典『中庸』の一節「誠者天之道也、誠之者人之道也」にちなんで命名したものです。

建物の特徴

誠之堂は煉瓦造平屋建で、建築面積は112平方メートルです。外観は英国農家のデザインを基にしつつ、内部や外部の装飾には中国、朝鮮、日本など東洋的な要素も取り入れられています。多彩な煉瓦積技法と自由な意匠が調和したこの建築物は、大正時代の美術工芸運動の影響を色濃く反映しており、非常に高く評価されています。

建築の細部とデザイン

外観の特徴

屋根は天然スレート瓦で覆われており、正面にはシンメトリーを強調するための小屋根が設けられています。特に目を引くのは、風見鶏で、方位板には中国風の漢字がてん書風にデザインされています。また、正面のベランダには東洋趣味風の手摺子が施されたベンチが左右対称に配置され、全体の調和を保っています。

外壁には濃淡のある煉瓦がリズミカルに配置されており、装飾性と変化が与えられています。これは、当時の一般的な煉瓦タイルによる均質な外壁とは異なり、特別な工法が用いられたものです。

内観の魅力

誠之堂の内装も見どころが多く、特に玄関は白い天井と露出した柱、梁が特徴的です。このデザインは、昭和初期に流行したハーフティンバー様式に似ており、田辺淳吉の設計により、飛鳥山に建てられた「晩香廬」にも共通する要素が見られます。

中心の大広間には円筒型の漆喰天井(ヴォールト天井)があり、朝鮮風の雲・鶴の模様の石膏レリーフが配されています。これらの装飾は、渋沢栄一の喜寿を祝うためのもので、めでたい意匠がふんだんに取り入れられています。

特注金具とステンドグラス

誠之堂には、カーテンレールや窓、戸の金具など、特注で作られた多くの装飾が残されています。これらの金具には「YALE」と「SCHIMIDZU」の刻印があり、アメリカのYALE社によって製造された特注品であることがわかります。また、窓には6面のステンドグラスが配され、中国漢代の「画像石」の図柄を模した珍しい題材が描かれています。

清風亭と保存の取り組み

誠之堂の隣には、清風亭が並んで建てられています。清風亭は、大正15年に当時第一銀行頭取であった佐々木勇之助の古希(70歳)を記念して建築されました。誠之堂と清風亭は、いずれも渋沢栄一にゆかりの建物であり、平成11年に東京世田谷区から深谷市に移築されました。

誠之堂は平成15年、国の重要文化財に指定され、清風亭は平成16年に埼玉県指定有形文化財に指定されました。誠之堂は、渋沢栄一の記念堂として深谷市に保存され、その美しいデザインと歴史的価値から、今でも多くの人々に愛されています。

Information

名称
誠之堂
(せいしどう)

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