さいたま緑の森博物館は、埼玉県入間市宮寺地区(65ha)および所沢市糀谷・堀之内地区(20.5ha)に位置する、合計面積85.5haの県立博物館です。通称「みどり森」とも呼ばれるこの博物館は、狭山丘陵に残る武蔵野の里山環境を展示するフィールドミュージアムとして設立されました。
1960年代から1980年代にかけて、狭山丘陵の開発が進む中で、その自然環境を保全し、緑や生き物とのふれあいの場を守ろうという声が高まりました。これを受け、さいたま緑の森博物館が開設されました。他の博物館とは異なり、大きな建物や展示室はなく、屋外の里山の自然そのものが展示物となっています。
この地域は、江戸時代中期から人々によってクヌギやコナラが植えられ、雑木林が作られてきました。雑木林や畑、田んぼなどの多様な里山環境が維持され、多くの動植物が生息しています。さいたま緑の森博物館は、生産農地や雑木林のある、生きた野外博物館(フィールドミュージアム)としての役割を果たしています。
博物館の大部分を占める樹林地は、代償植生としてのコナラ林であり、狭山丘陵全域にわたって分布しています。代表的な谷戸には、大谷戸湿地、西久保湿地、小ケ谷戸湿地、八幡湿地があります。これらの湿地では、ミゾソバ群落、ヨシ群落、ミヤマシラスゲ群落が広がり、豊かな生態系が保たれています。
博物館内の植物の種類は、埼玉県による調査報告書(1998年)によれば、123科696種が記録されています。哺乳類はアズマモグラ、アブラコウモリ、ヤマコウモリ、ノウサギなど8科11種、鳥類は32科123種、両生類はヤマアカガエルやニホンアカガエルなど6科8種、爬虫類はニホントカゲやカナヘビ、ジムグリなど5科8種、魚類は5科12種、水生昆虫は22科31種が記録されています。
さいたま緑の森博物館は、狭山湖の北岸、狭山丘陵の一角に位置し、埼玉県立狭山自然公園の中にあります。狭山丘陵の自然や雑木林そのものを野外展示物として、自然観察の場として活用することを目的としています。敷地内には雑木林や湿地、ため池などがあり、遊歩道を歩きながら生息する動植物を観察することができます。
1986年11月、狭山丘陵の自然保護活動を進めていた環境保護市民運動団体は、埼玉県に対し狭山丘陵の活用と保全の基本計画をまとめた『雑木林博物館構想』を提示しました。これを受けて埼玉県は、1990年に保全計画を確約し、1995年7月に「緑の森博物館」として実現しました。しかし、オープン前から博物館の予定地では、マウンテンバイクや犬の訓練、違法な魚の放流等の事例が相次いでいました。
さいたま緑の森博物館の管理運営は、入間市域と所沢市域で異なる方式を採用しています。入間市域では、指定管理会社委託方式により博物館の運営管理が行われています。また、博物館活動を支えるボランティア組織も多く、稲作体験教室や自然観察会、雑木林体験教室が定期的に開催されています。
所沢市域では、2004年12月18日に設立された地元の「糀谷八幡湿地保存会」が全面開館まで運営管理を行っています。糀谷八幡湿地保存会は、会員数約40名で、地域の研究者やNPOもメンバーとなっています。また、入間市域では、博物館活動を自主的に支える「緑の森倶楽部」が結成され、自然環境調査や自然観察会等のイベント企画・実施を行っています。
さいたま緑の森博物館の基本方針は以下の通りです。
さいたま緑の森博物館は、以下の主要施設を有しています。
案内所、水鳥の池、湿性園、駐車場、多目的広場、展望広場、大谷戸湿地、トンボの湿地、雑木林広場、疎林広場、西久保湿地、西久保田んぼ、自然観察路、休憩施設等が整備されています。
八幡湿地、八幡田んぼ、八幡田んぼ広場、自然観察路等が整備されています。整備計画期間は、第一期(入間市域)は1987年度から1994年度、第二期(所沢市域)は1995年度から1998年度となっていますが、所沢市域の整備は遅れ、2013年4月に全面開館しました。
さいたま緑の森博物館では、狭山丘陵の保全活動を継続的に行っています。2012年8月27日には、埼玉県は博物館の第二期整備予定地の一部を所有する西武鉄道、トトロのふるさと基金、所沢市、入間市と協定を結び、保全活動に取り組んでいます。また、2012年9月2日に設置された「さいたま緑の森博物館保全活用協議会」で協議を進め、博物館の管理運営に関する基本方針を策定しています。
このように、さいたま緑の森博物館は、自然環境の保全と活用を通じて、多くの人々が自然とのふれあいを楽しむ場を提供しています。これからも、地域住民やボランティア団体と協力しながら、豊かな自然環境を次世代に伝えるための活動を続けていきます。