埼玉県比企郡川島町に佇む遠山記念館は、日興証券創設者・遠山元一の邸宅と、遠山元一が収集した美術工芸品を公開する博物館です。国の重要文化財に指定された歴史的な建造物と、貴重な美術品のコレクションが調和し、訪れる人に豊かな文化体験を提供しています。
遠山記念館は、川島町出身で日興證券(現SMBC日興証券)の創立者である遠山元一の遺志に基づいて設立されました。国の重要文化財である建造物の保存・公開とともに、重要文化財6点を含む美術工芸に関する資料の公開を行い、文化および芸術の振興を目的としています。
遠山邸は、埼玉県比企郡川島町ののどかな田園風景の中に静かに佇んでいます。遠山元一が幼い頃に没落した生家を再興し、苦労した母・美以の住まいとして完成させた大邸宅です。
建築総監督は弟の遠山芳雄が務め、設計監督は東京帝国大学卒業の室岡惣七、大工棟梁は東京・阿佐谷の中村清次郎が担当しました。昭和8年(1933年)に着手され、昭和11年(1936年)に竣工までの2年7ヵ月間、延べ3万5千人が関わった壮大なプロジェクトでした。
訪問者は、長屋門をくぐって表玄関までのアプローチや、邸宅内の畳廊下を進むことで、奥深い邸宅美を楽しむことができます。
遠山邸は、昭和45年に遠山記念館として一般公開され、その後も文化財的価値が認められ、平成12年には国の登録文化財に、平成30年には国の重要文化財に指定されました。遠山邸は、近代和風建築の傑出した例として高く評価されています。
旧日興證券(現SMBC日興証券)の創立者・遠山元一が生家の再興と母の安住の住まいとして建てた遠山邸は、昭和11年(1936年)に竣工しました。当時の最高技術の大工、左官らによって、全国から集めた今日では手に入れることのできない材料をふんだんに用いて建てられました。戦後、母美以の没後は日興證券の迎賓館として使用されました。
遠山元一は晩年、遠山邸を私邸でありながら文化財的価値があると考え、その保存継承のために財団法人の認可を受け、昭和45年(1970年)から遠山記念館として一般公開を始めました。今日ではすでに4分の3世紀の歴史を重ねていますが、ほとんど増改築をせず、当初の姿を継承しています。平成12年(2000年)には国の登録文化財となり、平成30年(2018年)には国の重要文化財に指定されました。
遠山邸は、3つの棟を渡り廊下で連結するプランで建てられました。東棟は生家を再興したことを象徴する豪農風の建築、中棟は貴顕の来客を接待するための格式のある書院造りの大広間、西棟は母のために数寄屋造りの座敷を設けています。これに土蔵や長屋門を加えると、総建坪は400坪を越えます。
3つの棟が建築様式を異にしながらも調和しており、建築技術と細部の意匠はいずれも伝統に忠実で、木材、壁、建具や畳などの材料も吟味され、自然素材の持ち味が保たれています。
表玄関から入って畳廊下を進むと、各座敷をゆっくりと見て楽しむことができます。18畳の書院造りの大広間では、床の間を背にした3方に展開する庭の景色を堪能することができ、ゆったりと和の空間に浸ることができます。
邸宅主屋の前には回遊式の日本庭園が造られ、四季折々の風情が楽しめるように植栽と石組みに工夫が施されています。格式のある庭園と同様に、松を中心に、秋に美しい紅葉が楽しめるもみじ、かつての生家が梅屋敷と呼ばれていたことから多くの白梅が植えられています。十三重塔や石灯籠が配置され、組井筒から流れ出る井戸水は庭を緩やかに流れて屋敷の外の濠へと下ります。
庭の広さは、長屋門からの車回しを含めるとおよそ3000平米で、飛び石を辿りながら春の梅、桜、躑躅、さつき、夏の花菖蒲、濠の蓮花、秋の紅葉を楽しむことができます。武蔵野の田園に佇む遠山邸の庭園は、借景としての山並みは望めませんが、主屋の裏の大欅は屋敷林となり、隣家へつながり、水田地帯を輪中の自然堤防のように円弧を描いています。
表玄関から畳廊下を進み、各座敷をゆっくりと見て楽しむことができます。書院造りの大広間では、床の間を背にした庭の景色を堪能することができ、四季折々の風情を味わうことができます。
遠山記念館の創立者である遠山元一が蒐集した美術工芸品のコレクションは、日本と中国の書画・陶磁器、人形、染織品、世界の工芸品と染織品など11,000点に及びます。これらは先祖伝来の美術品ではなく、昭和11年竣工の遠山邸の8ヶ所の床の間を飾るために集められたものです。貴顕の来客に最高のもてなしができる格式ある書画工芸品が揃えられています。
平安時代のかなの名筆「寸松庵色紙」、鎌倉初期の「佐竹本三十六歌仙絵」、江戸時代の文人画・岡田半江「春靄帰鴉図」、英一蝶「布晒舞図」などがあり、これらは国の重要文化財に指定されています。
昭和45年の遠山記念館の一般公開に合わせて、古代オリエントやアンデスの工芸品、染織品などを追加蒐集しました。その後も多彩な染織品を拡充し、コレクションの約7割は世界各地の染織品となっています。これらは生活の中から生まれたものに美を見出そうとする遠山元一の志向を受け継ぐ作品群です。これらの美術品は、年間6回のテーマ展で順次公開されています。
遠山記念館では、遠山元一の志向を受け継ぐ美術品コレクションを年間6回のテーマ展で公開しています。これらの美術品は、日本と中国の書画・陶磁器、人形、染織品、世界の工芸品や染織品など、多岐にわたります。
遠山記念館の重要文化財には、以下のような美術工芸品があります。
建造物9棟および土地は、2018年度に「旧遠山家住宅」として国の重要文化財に指定されました。2000年から2018年までは国の登録有形文化財でした。
遠山記念館は、美術品と建築、庭園の調和した文化施設として、多くの訪問者に日本の伝統美を提供しています。文化財の保存と公開を通じて、遠山元一の遺志を受け継ぎ、文化芸術の振興に寄与し続けています。