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御岳の鏡岩

(みたけ かがみいわ)

御岳の鏡岩(みたけのかがみいわ)は、埼玉県児玉郡神川町二ノ宮に位置し、国の特別天然記念物に指定された日本国内最大規模の断層鏡肌です。断層鏡肌(だんそうかがみはだ)は、地中での断層運動によって岩盤が摩擦され、砥石で磨かれたような平滑な岩肌が形成されます。この鏡岩もその一例で、滑らかで光を反射する美しい表面が特徴です。

断層鏡肌とは何か

鏡肌(かがみはだ、スリッケンサイド、英: Slickenside)は、地質学用語で断層運動によって生じた岩盤の露頭が鏡のような光沢を持つ岩面を指します。断層運動により、岩石同士が強い摩擦を受け、互いに平滑な岩盤面が形成されます。その後、片方の岩盤が浸食されることで、もう一方の平滑な岩肌が地表に現れるのです。この鏡肌には、断層運動によって付けられた線状のスクラッチ(条溝)が見られることもあり、これを調べることで断層の動きを理解することができます。

御岳の鏡岩の規模と重要性

断層鏡肌自体は日本国内外で見られるものですが、御岳の鏡岩のような大規模で平滑な鏡肌は非常に稀です。そのため、御岳の鏡岩は1940年(昭和15年)8月30日に国の天然記念物に指定され、1956年(昭和31年)7月19日には特別天然記念物に格上げされました。特別天然記念物として鏡肌が指定されているのは、この御岳の鏡岩だけです。

御岳の鏡岩の地質学的背景

御岳の鏡岩は、埼玉県北西部の児玉郡神川町にある金鑚神社(かなさなじんじゃ)の境内に位置しています。この場所は、秩父山地の北東端、山地と関東平野の境界にあたります。南東から北西にかけて多数の断層が束になって走る大断層帯が形成されており、この地域は日本最大の地帯構造である中央構造線の東縁に位置しています。

鏡岩の地質学的形成過程

埼玉県北西部は白亜紀に大きな変成作用を受けており、活断層が発達しています。その結果、神川町西部の御嶽山一帯には多数の構造線が生じました。これらの構造線の一つである八王子構造線と中央構造線の交点にあたる場所が、御岳の鏡岩の位置です。この場所は、断層運動による強い摩擦と圧力の影響を大きく受けた結果、現在の平滑な鏡肌が形成されました。

観光情報とアクセス

御岳の鏡岩は、金鑚神社の社殿から御嶽山山頂へ向かう登山道の途中にあります。社殿から山頂へ向かう階段を約400メートル登ると、左手に鉄柵で囲まれた巨岩が現れます。これが国の特別天然記念物に指定された「御岳の鏡岩」です。その表面に露出する平滑な部分は高さ約4メートル、幅約9メートルもあり、非常に大きな鏡肌を持っています。

鏡岩の伝説と文化的背景

御岳の鏡岩にはいくつかの伝説が伝えられています。例えば、この岩が月夜に照らされて敵の目標とされることを防ぐために、松明の煙で岩の表面を燻したという話があります。また、高崎城が落城した際、落ち武者がこの鏡岩に映る炎を見て憤慨し、松明で燻して曇らせたという伝説もあります。江戸時代後期の見聞記『遊歴雑記』には、人の顔のシワまで映し出す「姿見の明鏡」と記されています。

鏡岩の保護と環境保護活動

御岳の鏡岩は、国の特別天然記念物として保護されています。神川町により周囲に鉄柵が設置されており、近づいて岩肌を触ることはできません。しかし、埼玉県立自然の博物館(秩父郡長瀞町)には御岳の鏡岩と同じ赤鉄石英片岩でできた「日本地質学発祥の地」の石碑があり、ここでは岩肌を直接観察することができます。

交通アクセス

御岳の鏡岩へは、関越自動車道本庄児玉インターチェンジより車で約20分(約10㎞)の距離です。また、JR東日本の八高線本庄駅または丹荘駅から朝日バス(神泉総合支所ゆき)に乗車し、「新宿(しんしゅく)」バス停で下車後、徒歩約20分の道のりです。

まとめ

御岳の鏡岩は、その大規模で美しい断層鏡肌として、地質学的にも文化的にも重要な存在です。訪れる際には、その壮大な自然の美しさと歴史的な背景をじっくりと感じることができるでしょう。また、環境保護の重要性を意識しながら、この貴重な自然遺産を大切に守っていくことが求められます。

Information

名称
御岳の鏡岩
(みたけ かがみいわ)

秩父・長瀞

埼玉県