滝沢ダムは、埼玉県秩父市にある一級河川・荒川水系中津川に建設されたダムです。このダムは、重力式コンクリートダムであり、その高さは132メートル、総貯水容量は6300万立方メートル、湛水面積は1.45平方キロメートルという国内でも屈指の規模を誇ります。独立行政法人水資源機構が施工を行い、荒川の治水と東京都・埼玉県への利水を目的とした多目的ダムとして計画されました。
滝沢ダムの建設は、1961年に二瀬ダムが荒川本川に建設されたことに端を発し、荒川水系のさらなる洪水調節の必要性が高まったことから進められました。1969年に予備調査が開始され、その後1976年には水資源開発公団に事業が移管されました。しかし、ダム建設に対する反対運動が激化し、補償交渉が長期化したため、実際の着工までには長い年月を要しました。最終的に、1988年に主要な住民団体との補償交渉が妥結し、1992年までに全ての交渉が完了しました。
滝沢ダムによって形成された人造湖は「奥秩父もみじ湖」と名付けられています。この湖は、秩父多摩甲斐国立公園に含まれており、美しい自然景観を楽しむことができます。また、ダムは最大3400キロワットの水力発電を行っており、その放流水が利用されています。ダム内部の見学も可能で、ダムカードの配布や詳細な説明が記されたパンフレットが提供されています。
滝沢ダムの建設にあたっては、大滝村の住民112戸が水没することとなり、補償交渉が長期化しました。水没する住民たちは複数の対策団体を結成し、ダム建設に対する反対運動を展開しました。また、秩父漁業協同組合も漁業権を巡って強硬に反対しました。しかし、最終的には国庫補助を含む様々な施策が講じられ、1996年には全ての移転が完了しました。1999年にダム本体の工事が着工し、2008年に竣工しました。
滝沢ダムの建設に伴い、自動車道路も整備され、国道140号線が全線開通しました。この道路は「秩父往還」として古くから知られており、ダム建設によりその交通の便が飛躍的に改善されました。特に注目すべきは、ダム直下流にあるループ橋の「雷電廿六木橋」であり、片側1車線の道路が整備され、ダム上下流を結ぶ役割を果たしています。2本の橋によるループ形状により高低差の約125mを地形をできるだけ変えずにつないでいます。この橋は夜間にはライトアップされ、美しい光の輪が形成されます。その高い技術と美しいデザインは、多方面から高い評価を受け、土木学会田中賞、土木学会デザイン賞(最優秀賞)、グッドデザイン賞など数々の賞を受賞しています。
滝沢ダム周辺は紅葉の名所としても知られており、特に秋の季節には美しい紅葉が楽しめます。ダム湖である奥秩父もみじ湖と周囲の山々が織りなす風景は、多くの観光客を魅了しています。ダムの内部も見学可能で、ダムの構造や機能について学ぶことができます。紅葉の見頃は例年10月下旬から11月中旬までで、この時期には多くの人々が訪れ、自然の美しさを堪能しています。
滝沢ダムとその周辺地域は、自然環境の保全と観光振興が調和した魅力的な場所です。四季折々の風景を楽しむとともに、歴史と現代技術の結晶であるダムの役割を理解する機会を提供しています。