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武甲山

(ぶこうざん)

伝説が秩父盆地のシンボル

武甲山は、埼玉県秩父地方の秩父市と横瀬町の境界に位置する標高1,304メートルの山です。この山は日本二百名山の一つに数えられ、秩父盆地の南側にそびえ立つその姿から、多くの登山者や観光客に親しまれています。秩父地方の総社である秩父神社の神奈備山としても知られ、無形文化遺産である秩父夜祭とも深い関わりを持っています。

歴史と信仰

武甲山は古くから山岳信仰の対象であり、秩父の神奈備山として知られてきました。日本武尊がその堂々たる山容に感動し、武具を納めたという伝説があり、その伝説から武甲山という名前が定着したと言われています。また、秩父の神霊が鎮座する山として、多くの人々の信仰を集めてきました。

別名と自然環境

武甲山は、別名を秩父嶽、妙見山、武光山とも呼ばれ、特有の石灰岩地にはチチブイワザクラなどの高山植物が群生しており、「武甲山石灰岩地特殊植物群落」として国指定の天然記念物となっています。特に北側斜面は石灰岩の採掘が盛んで、そのため山容が大きく変わり、旧山頂や歴史的な信仰遺跡も失われています。

石灰岩採掘の影響

武甲山の北側斜面は石灰岩質であり、古くから石灰岩の採掘が行われてきました。特に明治期以降、セメントの原料として大規模な採掘が進行し、その結果、旧山頂は失われて、山頂の標高が1,336メートルから現在の1,304メートルまで低下しました。この採掘によって旧山頂にあった縄文時代から近代までにいたる歴史のあった信仰遺跡、巨岩群も消滅しており、山の自然景観や歴史的な遺産が大きく損なわれています。

山名の由来と変遷

武甲山の名前にはいくつかの由来があり、日本武尊が登山し武具を納めたという伝説が広く知られています。また、時代によって「タケヤマ」や「秩父嶽」など、さまざまな名前で呼ばれてきました。これらの名前の変遷は、秩父地方の歴史や宗教的な背景に深く関連しています。

武甲山御嶽神社と信仰

武甲山の頂上には「武甲山御嶽神社」が鎮座しており、かつての村社である旧武甲山蔵王権現社が由来です。この神社は明治時代の神仏分離令および一村一社令により、横瀬村内の50余りの神社を合併し形成されました。現在の社殿は、石灰岩採掘により旧社地が失われたため、頂上付近から移転されたものです。

登山道には一の鳥居を「一丁目」、頂上の御嶽神社を「五十二丁目」として丁目石が設置されており、毎年5月1日には山開きの神事が行われます。

地質学的成り立ち

武甲山は、かつて南方(現在のハワイ周辺)に存在していた火山島が活動を終え、サンゴ礁が形成された石灰岩を含む海山がプレートの動きによって北上し、日本列島の一部として隆起したものです。この地域は秩父累帯南帯に属し、武甲山をはじめ、白岩山、二子山、叶山などが石灰石の付加体を持つ山々です。

登山と観光

武甲山は年々その形が変わりつつありますが、現在でも多くの登山者に愛されています。登山ルートとしては、表参道と呼ばれる横瀬駅から生川を経由するルートが一般的です。このルートは道も整備されており、比較的安全に登山を楽しむことができます。山頂には御嶽神社があり、特に毎年5月1日に行われる山開きの神事では多くのハイカーで賑わいます。

他にも浦山口駅から橋立を経て頂上に至るルートや、武甲山から大持山・武川岳方面への縦走ルートなど、複数の登山ルートがあります。これらのルートはそれぞれに魅力があり、登山者に豊かな自然や歴史を楽しませてくれます。

登山ルート

標高1,304メートルの武甲山は秩父の象徴的な単独峰であり、頂上からは秩父盆地全体を見渡せる絶景が広がります。一般的な登山ルートとしては、生川コース(表参道コース)で登り、長者屋敷の尾根(橋立)コースで下山するルートがあります。

生川コース(上り)

横瀬駅〜生川〜武甲山
この表参道ルートは、横瀬駅から登山口の生川まで進みます。生川への道中は鉱石運搬のダンプカーが頻繁に通行するため、歩行時は注意が必要です。タクシーを利用することもできます。

一の鳥居(一丁目)から大杉の広場(三十二丁目)へ
一の鳥居には駐車場と水洗トイレが整備されています。急傾斜の作業道を進み、杉の巨木が立ち並ぶ大杉の広場に到達します。

大杉の広場(三十二丁目)から武甲山山頂(五十二丁目)へ
ここからは石灰岩の多い滑りやすい道を進み、約1時間で山頂に到着します。山頂からは秩父盆地や両神山、城峰山などの素晴らしい眺望が楽しめます。

長者屋敷の尾根コース(下り)

浦山口駅〜橋立〜武甲山
浦山口駅から秩父札所28番橋立堂・橋立鍾乳洞を経由して山頂に至るルートです。山頂からは長者屋敷の頭へ進み、カラマツ林や橋立川を経て下山します。

武甲山山頂からの下山
山頂から長者屋敷の頭を経由して橋立川へ下り、林道終点から札所28番橋立鍾乳洞へ向かいます。そこから徒歩で浦山口駅まで戻ることができます。

自然の豊かさと保護

武甲山は石灰岩質の特殊な環境に生息する山野草が豊富で、特にチチブイワザクラは埼玉県希少動植物種に指定されています。また、山の斜面には豊かな森林が広がり、多くの動植物が生息しています。この自然環境を守るため、県立武甲自然公園として指定されており、訪れる際には自然保護への配慮が求められます。

武甲山の未来

武甲山はその特異な地質と長い歴史、そして豊かな自然環境によって、多くの人々に愛されています。しかし、石灰岩の採掘が続く中で、山の形や自然が変化していくことは避けられません。今後もこの美しい山を守りながら、多くの人々がその魅力を享受できるよう、環境保護と観光のバランスを保つ取り組みが求められています。

Information

名称
武甲山
(ぶこうざん)

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